店舗を運営していると、「伝えたはずなのに、思っていたように伝わっていなかった」ということがあります。
朝礼で説明した。ミーティングでも話した。スタッフからも「分かりました」と返事があった。
それでも実際に動き始めると、店長とスタッフで考えていたことが違っていた。そんな経験がある店長や店舗責任者は少なくないのではないでしょうか。
職場のコミュニケーションというと、「話しやすい雰囲気をつくる」「会話を増やす」「相手の話をよく聞く」といったことが思い浮かびます。
もちろん、それらも大切です。
ただ、店舗マネジメントという視点で考えると、コミュニケーションの目的は単に会話を増やすことではありません。
Project FREEDOMでは、店舗におけるコミュニケーションを、
「相手との認識をそろえ、同じ方向へ進める状態をつくること」
と考えます。
店長が方向や目的を伝える。スタッフがそれを受け取る。同時に、店長もスタッフの考えや現場の情報を受け取る。そして、お互いの認識にズレがないかを確認する。
その積み重ねによって、スタッフが目的や判断基準を理解し、自分で考えて行動できる状態へ近づいていきます。
前の記事では、リーダーシップとは?店長がスタッフの強みを活かし、チームで成果を出す考え方として、「方向・目的・判断基準を共有し、スタッフが自分で考えて動けるチームをつくる」という考え方を紹介しました。

今回は、その土台となる「店長とスタッフのコミュニケーション」について、実際の店舗運営で経験した事例も交えながら考えていきます。
職場のコミュニケーションとは?店長に必要なのは「たくさん話すこと」ではない
店舗では、店長からスタッフへ多くの情報が伝えられます。
売上目標、店舗の方針、その日の重点項目、業務の変更、シフト、商品情報、接客についての共有など、内容はさまざまです。
そのため、「きちんと伝えること」は店長の大切な役割です。
しかし、伝えることと、コミュニケーションが成立することは同じではありません。
「伝えた」と「伝わった」は違う
店長が説明した時点では、まだ「伝えた」という段階です。
その言葉をスタッフがどう受け取ったのか。店長が意図した内容と同じように理解しているのか。
そこまで確認できて、初めて「伝わった」に近づきます。
さらに、「伝わった」からといって、店長とスタッフの認識が完全にそろっているとは限りません。
私は以前、中途採用スタッフの店舗への入店スケジュールで、このことを実感した経験があります。
中途採用では、未経験者と経験者によって入社後のスケジュールをずらすことがあります。基本的にはトレーニングを受けてから店舗へ配属しますが、経験者の場合、トレーニング前でも店舗勤務が可能なケースがあります。
欠員が出ている店舗では、できるだけ早くスタッフに店舗へ入ってもらいたいこともあります。
あるとき、以前にも似たケースがあったため、私は店長へ、
「前と同じスケジュールです」
と伝えました。
店長からは「はい、分かりました」と返事があり、私は認識がそろったと思っていました。
ところが後になって、私が考えていた「前回」と店長が考えていた「前回」が違っていたことが分かりました。
結果として、私と店舗はまったく違うスケジュールを想定して動いており、そのズレに気づくまでに時間がかかりました。
このとき問題だったのは、店長が確認しなかったことではありません。
伝える側の私も、「分かりました」という返事だけで、同じ内容をイメージしていると思い込んでいたことです。
「前と同じ」「いつものように」「前回と同様」といった言葉は、一見すると分かりやすく感じます。
しかし、伝える側と受け取る側が、同じ状況を思い浮かべているとは限りません。
それ以降、中途採用スタッフの入店について伝えるときは、採用、トレーニング、店舗への入店、店舗シフトへ組み込むタイミングまで、日時を含めて時系列で具体的に伝えるようにしました。
この経験から学んだのは、
「はい、分かりました」=「認識がそろった」ではない
ということです。

コミュニケーションは双方向で成立する
もう一つ大切なのは、店長が伝えるだけで終わらせないことです。
店舗では、店長がすべての出来事を見られるわけではありません。
お客様との会話、スタッフ同士のやり取り、売場で起きている変化など、実際にその場にいるスタッフだから分かることがあります。
その情報や考えを店長が受け取ることも、コミュニケーションの一部です。
店長が伝える
→ スタッフが受け取る
→ スタッフが考えや情報を返す
→ 店長が受け取る
→ 認識のズレを確認する
コミュニケーションは、このような双方向のやり取りによって成り立ちます。
なぜ店舗マネジメントにコミュニケーションが必要なのか
店舗には、売上目標やKPI、接客方針、業務ルールなど、さまざまな共通目標や判断基準があります。
しかし、それらを決めただけでチームが同じ方向へ動くわけではありません。
店舗の方向と目的をスタッフと共有するため
たとえば、店長が「今日はこの業務を優先してください」と指示したとします。
スタッフがその指示だけを覚えていれば、その日は動けるかもしれません。
しかし、「なぜ今日はそれを優先するのか」まで理解していれば、少し状況が変わったときにも、自分で判断しやすくなります。
これは、リーダーシップとマネジメントの違いともつながっています。
方向を示すだけでは、その方向はチームのものになりません。
方向を示すリーダーシップと、それを共有するコミュニケーションはつながっています。
店長だけでは見えない現場の情報を受け取るため
コミュニケーションには、スタッフが何を考え、何を見ているのかを店長が知る役割もあります。
以前、ある店舗で、一人のスタッフが入店されたほぼすべてのお客様へ非常に早く声をかけていました。
周囲のスタッフからは、
「あの人がすべてのお客様に声をかけるので、自分たちが接客に入れない」
という声が上がっていました。
そのスタッフは個人売上が常に店舗トップだったため、周囲からは「自分の個人売上を取りたいから、すべてのお客様へ声をかけている」と受け取られていました。
そこで私は本人に、
「いつも入店いただいたお客様へのお声掛けが早いね、ありがとう」
と伝えたうえで、
「すべてのお客様にお声をかけるのは、何か意図があるの?」
と聞いてみました。
すると、本人から思っていたのとは違う背景を聞くことができました。
前職で、「店に入ったのに声もかけてもらえず、無視された」というお客様からのクレームを受けた経験があったそうです。
それ以来、「あなたに気づいています」という意思表示として、入店されたすべてのお客様へまず声をかけるようにしている、ということでした。
周囲から見えていた行動は同じです。
しかし、その行動に対する解釈は大きく違っていました。
周囲には「自分の売上を取りたい行動」に見えていた一方、本人は過去の経験から、お客様やチームのためを考えて行っていました。
ここで大切なのは、どちらかの解釈をすぐに正しいと決めることではありません。
行動だけを見ても、その人がなぜそうしているのかまでは分からないということです。
数字を見ることは店舗マネジメントで欠かせません。しかし、数字だけでは背景までは分かりません。
同じように、行動を見ることも大切ですが、行動だけでは本人の意図までは分かりません。
本人とコミュニケーションを取り、考えや背景を聞くことで、初めて見えてくることがあります。
スタッフの数字を見るときも同じです。スタッフKPIの分析方法では、個人売上やCVR、ATV、UPTだけで判断せず、その背景にある行動まで確認する考え方を紹介しています。
認識のズレによるミスや手戻りを減らすため
認識のズレは、大きな問題だけで起きるわけではありません。
「前と同じでお願いします」
「なるべく早めにお願いします」
「売場をしっかり見ておいてください」
こうした言葉も、伝える側と受け取る側で意味が違う可能性があります。
「前」とはいつなのか。
「早め」とは何時までなのか。
「しっかり見る」とは何を確認することなのか。
店長の頭の中では具体的でも、スタッフの頭の中に同じイメージがあるとは限りません。
認識をそろえることは、スタッフを細かく管理することではありません。
むしろ、必要な認識を最初にそろえておくことで、その後はスタッフ自身が判断しやすくなります。
スタッフが自分で判断できる土台をつくるため
店長がすべての場面で指示を出し続ける店舗では、店長がいないと判断が止まりやすくなります。
一方、店舗の目的や優先順位、判断基準が共有されていれば、スタッフは状況に応じて考えることができます。
コミュニケーションの目的は、店長の指示を正確に実行してもらうことだけではありません。
「この店舗では何を大切にするのか」を共有し、スタッフが自分で考えるための土台をつくること。
そこまでつながってこそ、店舗マネジメントにおけるコミュニケーションの意味が出てきます。
店長とスタッフのコミュニケーションがすれ違う5つの原因
店舗で認識のズレが起きると、「もっとコミュニケーションを取ろう」と考えがちです。
しかし、単純に会話量を増やすだけでは解決しないことがあります。
大切なのは、どこですれ違っているのかを見ることです。
①「言ったから伝わった」と考えてしまう
最も起こりやすいのが、伝えた時点でコミュニケーションが完了したと思ってしまうことです。
店長が説明したことと、スタッフが理解したことは必ずしも同じではありません。
伝える側にも、相手と認識が一致しているか確認することが必要です。
② 目的ではなく指示だけを伝えている
「これをしてください」だけでは、スタッフはその場では動けても、状況が変わったときに判断できないことがあります。
「何をするか」と一緒に「なぜそれをするのか」を共有すると、判断の基準が見えやすくなります。
すべての指示を長く説明する必要はありません。
ただ、スタッフ自身に判断してほしい仕事ほど、目的を共有することが重要です。
③ 店長が話す時間ばかり長くなっている
店長には伝えなければならないことが多いため、どうしても「話す側」になりがちです。
しかし、スタッフの考えや現場情報を受け取らなければ、店長側の理解も一方向になります。
「どう思う?」
「実際にやってみてどうだった?」
といった短いやり取りからでも、店長が見えていなかった情報が出てくることがあります。
質問によって本人の考えを引き出す方法については、今後のコーチングの記事で詳しく扱います。
ここではまず、店長が話すだけでなく、相手から受け取る時間を持つことを意識してみましょう。
④ 経験や立場による受け取り方の違いを考えていない
同じ言葉でも、立場や経験によって受け取り方は変わります。
私はエリアマネジメントの中で、本社と店舗の間でも同じような認識差を経験してきました。
エリアマネージャーが不在のとき、本社スタッフが店舗を訪れ、その場で気づいたことをコメントすることがあります。
発信した側には大きな意図がなかったとしても、店舗側では「これは正式な指示なのか」「以前のガイドラインから変わったのか」と受け取ることがあります。
ときには、
「私たちはこんなに頑張っているのに、全部を否定されたような気持ちになりました」
と店長から相談を受けることもあります。
ここで重要なのは、どちらが正しいかを決めることではありません。
発信した側の意図と、受け取った側の解釈は必ずしも一致しないということです。
そのようなとき私は、まず日々店舗を運営してくれていることへの感謝を伝え、店長やスタッフがその言葉をどう受け取ったのかを聞きます。
そのうえで、発信者の意図、店舗側の受け取り方、これまでの方針との違いを整理します。
現場とオフィスの間に立ち、双方の認識をつなぐことも、エリアマネージャーの役割の一つだと考えています。

⑤「分かりました」で確認を終えている
「分かりました」という返事だけで、認識が一致しているとは限りません。
特に、日程、役割、優先順位、判断基準など、ズレると業務に影響する内容は具体的に確認する必要があります。
「では、次はどう進める?」
「いつまでに何をする?」
というように、次の行動まで確認すると、認識の違いに気づきやすくなります。
確認は相手を疑うためではありません。
お互いの頭の中にあるイメージを近づけるために行うものです。
店長が意識したいコミュニケーションの5つの基本
では、日々の店舗運営では何を意識すればよいのでしょうか。
難しいコミュニケーション技法を覚える前に、まず次の5つを意識してみてください。
① まず「何のために」を共有する
業務をお願いするときは、可能であれば目的まで共有します。
目的が分かると、スタッフは「言われたからやる」だけでなく、「この目的のためにはどう動けばよいか」を考えやすくなります。
② 相手の話を受け取る
コミュニケーションは、店長が正しい答えを伝える時間だけではありません。
スタッフがどう考えているのか。
現場では何が起きているのか。
なぜその行動を取ったのか。
まず受け取ってみることで、店長が見えていなかった背景に気づくことがあります。
③ 認識がそろっているか確認する
「伝えたか」ではなく、「どう伝わったか」を確認します。
特に、
「前回と同じ」
「できるだけ早く」
「いつものように」
といった曖昧な言葉を使ったときは、具体的な日時や行動に置き換えて確認するとズレを減らせます。
④ スタッフの経験や状況に合わせて関わり方を変える
すべてのスタッフへ、同じ量・同じ方法で説明する必要はありません。
新人:目的+背景+手順
中堅:目的+考える余白
ベテラン:目的+判断基準
というように、経験によって必要な情報や関わり方は変わります。
ただし、相手によって店舗の基準を変えるわけではありません。
同じ目的を理解するために、関わり方を変えるということです。

⑤ 次にどう行動するかまで確認する
「分かった?」と確認するだけでなく、
「では、ここからどう進めようか」
と次の行動まで確認すると、理解の違いを見つけやすくなります。
目的、優先順位、判断基準、次の行動。
ここまで共有できると、店長が細かく指示し続けなくても、スタッフ自身が考えやすくなります。
同じことを全員に同じように伝えればよいわけではない
店舗には、新人、中堅、ベテランなど、さまざまな経験を持つスタッフがいます。
同じ言葉を伝えても、その言葉を理解するために持っている経験や前提は違います。
新人には、背景や目的、具体的な手順まで必要なことがあります。
中堅スタッフには、目的や優先順位を共有したうえで、自分で考える余白を残した方が成長につながる場合があります。
ベテランスタッフなら、目的や判断基準を共有することで、これまでの経験を活かした判断や提案が期待できます。
ここで大切なのは、
「同じ方向へ進むこと」と「全員に同じ伝え方をすること」は違う
ということです。
目指す方向や店舗の基準は共通でも、そこを理解するために必要な情報や支援は、一人ひとり違います。
店舗コミュニケーションは「話す量」より「認識がそろったか」で考える
コミュニケーションに問題があると感じたとき、「もっと話す機会を増やそう」と考えることがあります。
しかし、朝礼やミーティングを増やせば必ず改善するわけではありません。
朝礼やミーティングを増やすだけでは解決しない
毎日朝礼をしていても、店長だけが話し続け、スタッフが「分かりました」と答えるだけなら、認識のズレに気づけないことがあります。
反対に、短い会話でも、
「どう受け取った?」
「現場ではどう見えている?」
「次はどう動く?」
と確認できれば、必要な認識をそろえられることがあります。
重要なのは、回数ではなく中身です。
「何を話したか」より「どう受け取られたか」を見る
発信した側には明確な意図があっても、受け手が同じ意味で理解しているとは限りません。
だからこそ、
「私は何を言ったか」
だけではなく、
「相手にはどう伝わったか」
を見る必要があります。
店長からスタッフだけでなく、スタッフから店長の流れをつくる
店舗の情報は店長だけが持っているわけではありません。
お客様に近いスタッフだから気づくことがあります。日々同じ業務を担当しているスタッフだから分かる問題もあります。
そして、本人にしか分からない行動の背景もあります。
店長が伝える
→ スタッフが受け取る
→ スタッフから情報や考えが返ってくる
→ 店長が受け取る
→ 認識を確認する
この循環があることで、コミュニケーションは一方向の指示から、チームの共通理解へ変わっていきます。
最終的にはスタッフが自分で考えて動ける状態を目指す
コミュニケーションを丁寧にするというと、店長が何度も説明したり、常に確認したりするイメージを持つかもしれません。
しかし、目指したいのはその逆です。
目的や判断基準が共有され、必要な認識がそろっていけば、スタッフは店長へ一つひとつ確認しなくても判断できる場面が増えていきます。
方向・目的を共有する
→ コミュニケーションを取る
→ 認識をそろえる
→ 判断基準を共有する
→ スタッフが自分で考える
→ 行動する
コミュニケーションは、スタッフを店長の指示どおりに動かすためのものではありません。
スタッフが自分で考えられるための共通の土台をつくるものです。

コミュニケーションはスタッフ育成の土台になる
ここまで見てきたコミュニケーションは、それだけで完結するものではありません。
スタッフが行動した後には、その行動や成果について伝える「フィードバック」があります。
本人の考えを引き出しながら成長を支援する「コーチング」。
目的や判断基準を共有したうえで仕事や判断を任せる「権限委譲」。
そして、一定期間の行動や成果、成長を振り返る「人事評価・面談」へもつながっていきます。
これらが機能するためにも、まず店長とスタッフの間でコミュニケーションが成立していることが前提になります。
その土台にあるのが、
「何を言ったか」だけでなく、「お互いがどう理解しているか」を確認することです。
店長とスタッフの認識をそろえることができたら、次に重要になるのが、日々の行動や結果に対して何を返すかです。
良かった行動を再現し、改善が必要なことを次の行動につなげるためには、フィードバックが欠かせません。

まとめ|コミュニケーションは「伝える」から「同じ方向へ進める」へ
職場のコミュニケーションで大切なのは、店長がたくさん話すことでも、スタッフとの会話をただ増やすことでもありません。
大切なのは、店長とスタッフの認識がそろっているかです。
店長が伝えたことと、スタッフが受け取ったことは違うかもしれません。
スタッフの行動と、店長や周囲が想像した本人の意図も違うかもしれません。
発信した側の意図と、受け取った側の意味も違うかもしれません。
だからこそ、
伝える
→ 聞く
→ 受け取り方を確認する
→ 認識をそろえる
→ 同じ方向へ進む
という流れが重要になります。
「自分はきちんと伝えたか」だけで終わらせず、
「相手にはどう伝わっているだろうか」
「自分は相手の考えを受け取っているだろうか」
「チームの認識は本当にそろっているだろうか」
と考えてみる。
そこから、店舗のコミュニケーションは少しずつ変わっていきます。
そして、目的や判断基準を共有できるようになれば、スタッフは「店長に言われたから動く」だけではなく、自分で考え、判断し、行動できるようになります。
それが、Project FREEDOMが店舗マネジメントで目指しているチームの姿です。
明日から一つ、コミュニケーションを変えてみる
まずは次の朝礼やスタッフとの会話で、何か一つ伝えたあとに、
「自分は伝えた」ではなく、「相手と同じ認識になっているだろうか」
と確認してみてください。
コミュニケーションを一度に大きく変える必要はありません。
「前と同じ」「いつものように」といった曖昧な言葉を一つ具体的にする。
スタッフの行動を見て判断する前に、その背景を一度聞いてみる。
その小さな積み重ねが、同じ方向へ進めるチームづくりにつながります。
次の記事では、このコミュニケーションを土台として、スタッフの行動や成果に対して**「何を、どう伝えるか」**というフィードバックについて考えていきます。



